著作書籍

『脈法愚解』木田一歩/著

今後出版予定の木田鍼灸院院長 木田一歩/著書『脈法愚解』の中から、脈診の意義、目的、浮脈(陽脈)について一部抜粋してご紹介いたします。

General content

(2p) The first chapter 概論集
(9p) The second chapter 脈状集
(99p) The third chapter 合診集
(112p) Reference book
(113p) Omake

1. 脈診の意義、目的

人は影響を受けながら生きている。例えば環境、気候、風土、食品、付き合い、住宅、思想等である

が、それらは全て身体内に影響を与え性格や骨格、病気等といったモノを形成していく。影響を受けないのは性別、寿命、誕生日という(天地自然)が決める事位であろう。脈を診るとは、その様に影響を受けながら生きていく様子を知る方法であるから、それにより治病を行なう者は、年の運気、季節、天候、排泄、飲食、睡眠、感情等ありとあらゆるモノが身体に影響を与え、しかも相互に関係しているという因果を解明して、治病に当たらなければいけない。つまり脈診が出来ない者は、痛んでいる箇所しか鍼を刺せず、脈診が出来る者ほど、痛んでいる箇所以外にも鍼を当て、治療も短期間で、しかも適切に指導が行なえるのである。これ故に脈を学ぶとは、膨大な時間を要し日頃からの鍛錬が要すると古くから言われる。

脈を学ぶには、先ず病症を理解して脈状を合わせて病機を考え、その病機理論から鍼灸や投薬等の方法を駆使して、症状と脈状の改善を図り確認することから始める。つまり理解しやすい病症と、理解しにくい脈状を治療によりつなぐのであり、つなげることでその脈状を理解するのである。そして脈状による病症理解が出来れば、日常行為の影響である睡眠、労働、飲食、排泄等の影響を脈状から読み取れるように努力すればよい。その努力を繰り返せば、脈状が現わす意味やその人の過去が把握でき、未来予想ができるようになる。これが脈を学ぶ者の到達点である。

例えば03年3月啓蟄を過ぎた頃雨天の日に来られた膝が痛む65才の女性について考える。

この様な人の場合1.膝が痛む、2.女性、3.65才、4.雨天、5.啓蟄を過ぎた頃、6.03年という情報で病機を考察する。この№の数字が大きくなるに従い知識レベルが上がるということであるから、初学の人は1しか理解できないが、熟練の人は5までをその思考の中に入れて治病できる。

そして脈が「全体的に沈位にして軟実で一息4.5至からやや5至、右関上脈がやや浮いて少し実脈を呈し、左尺中脈も同様に浮き気味であるが虚脈を示していた」とすると、「膝の内側が痛み少し浮腫がある」との切経から「脾経が痛む」という情報を加え、初学の人は脾経の治療をするだろう、また右関上を意識して胃に対して処置を加えるかも知れない。

そして知識レベルが向上するに従い、虚火が身体内で発生し陰気の形を維持する力が不足している事を、尺中脈の脈状や軟実の脈状より察して陰気の虚渇についても治療をするだろう。

更に高いレベルの人は、雨が多い外界の湿度によって陽気が動かず浮腫を起こしているとか、啓蟄は天界の少陽の気が旺気する時期、03年は火運不及の歳である等といった事も考慮して配穴して薬法を定め、入浴方法や食事の内容、病院での検査の助言等をして今後の予防まで出来るのである。

この様に脈を取る意義目的は、病人の過去や性格、生活態度や習慣、将来に対して展望を知ることであり、合理的に医療を進めるに当たり、医師として最低出来なければならない技術である。その為に学習と反復、成果と反省によってその全容が述べられている古典の解釈を含めなければならない。蛇足的に脈状は必ず裏付けが必要である。仮に浮脈というならば、或いは上焦に何らかの症状を見なければ脈浮が立証できないし、脈を診たとは言えないのである。

四時脈

弦脈:春季に胃の気が多く含まれているかを現わす脈。

鉤脈:夏季に胃の気が多く含まれているかを現わす脈。

毛脈:秋季に胃の気が多く含まれているかを現わす脈。または有形のモノの影響を受けない無形のモノの様子を現わす脈

石脈:冬季に胃の気が多く含まれているかを現わす脈。

浮脈(陽脈)

『脈経』浮脈.挙之有余.按之不足。

浮: 指をあげて有余、按じて不足。

脈浮は多くの書物に表病を主る陽脈である。と述べられているが、何を意味する脈なのだろう。愚木は脈の流体圧力が表に向かうベクトルを持つ場合に現わす脈と理解した。

脈管の原因

脈管は陰性の空間を有する器官(形)で、この内径は肺臓の呼吸により調節される。西洋医学で血管はCO2の増加やO2の不足によって拡張し、逆により収縮することが確認されているように、肺呼吸は呼吸器だけでなく血管も収縮と拡張させる。すなわち比較的高齢者に多い種々の疾患の原因は、肺腎の呼吸系統が弱って脈管内径の内径調節が出来ず、有するモノの絶対量が虚して形質の維持が出来なくなることが多い。これらから太陽病でみる浮脈(陽脈)は、肺でガス交換が行なえずCO2が多くO2が不足して脈管が収縮されず膨張している状態であることが分かる。つまり邪気が肺にあってガス交換が行なえない為に脈管が拡張し、体表近くで脈を触れる脈浮の状態を呈している。

『傷寒論』に「太陽之為病.脈浮.頭項強痛而悪寒.」とあるのは、肺でガス交換が行なえず胸腔内圧が高くなって体温が上昇し、皮膚を通じて肺にあるCO2を出そうとしたが体外温度と均一になれず悪寒を感じている様子を表現している。また「脈浮であれば必ず表に邪気がある」とする文意は脈浮は何かの原因で肺に問題があるので注意せよとする警告文である。すなわち脈浮は肺のガス交換異常を疑わなければならない。

内容物の原因

西洋医学の血液循環は血液が左心室から出て右心房に帰り肺を介して左心房に帰る。東洋医学の経脈循環は中脘より始まって肺臓に上がり左右共に同じ様に流れるが、このうち主に左肺経に重心を置きながら出て、右肝経に重心を置きながらまた中脘に帰る。これらの生理学を融合して考えると六部定位診は左寸口で心と小腸を候うのは、上焦に位置して常に動いて陽気を作り下焦の腎と上下に於いて循環の根幹を為すことから、左脈系は心陽気が主になって下焦に降りる様子が反映される。また中脘に納まった新鮮な精穀と肺でガス交換により得た新鮮なO2も左脈系には流れている。

これに対し六部定位診は右寸口部で肺と大腸、関上部で胃と脾の様子を候がう。太陰経の肺と脾は身体の補給路であるから左脈系に比べ体内で作られる陽気の純度は低い。また右脈系は西洋医学

  • このエントリーをはてなブックマークに追加