漢方なぞなぞ

【問.1】酒を飲むと眠くなるのはなぜか?

お酒を飲むと眠くなるのはなぜか?

酒は熱性で陽気が大変多いモノである。すなわち飲酒とは身体内に熱性の陽気を一時的に入れることである。また陽明に属す胃は陽気が多く、常に脾水の灌漑により陰陽の均衡を保っている。このことから飲酒は、陽気が多い胃中に熱性の多いモノを一時的に入れることになる。そして胃は飲酒によって発生した熱を膀胱に伝えて、発汗や排尿によってその熱を体外に排泄しようとする。また生体は一方で腎に働きかけて、その蔵している水を欲求する。すなわち長期に渡る飲酒は、脾水(陰)を渇かすだけでなく、腎水(陰)までも“虚”にさせてしまう。そして腎陰の虚損は肝陽の上逆、及び胆の少陽相火を過旺させるので、頭部に於いて陽気の過剰を出現させ、甚だしくなれば意識の喪失を発現させる。

また酒の気味は辛温であるが、この無形の影響は胸中に入り肺と心の陽気を鼓舞させ、この部における陰陽の均衡を崩していく。そして過剰にさせられた陽気は有形の作用と同じく、発汗や排尿の形で体外に排泄される。このように飲酒によって生体は過剰な陽気を体外に排泄しようと動くが、各器官を動かすのに必要な陽気までもが排泄されるので、遂には陽気が動かす各器官の動きが止まり眠くなるのである。

次に経絡に於いてはどのような変化を見るのだろうか。腎は経絡の流注に於いて陰陽の蹻脈と交会している。蹻脈は生体内と生体外の陰陽を調節する働きを有し、衛気と営気をデリバリーしている。このような作用から朝、人は目覚め、夜人は眠ることが出来るのである。飲酒することで生体内では、酒の陽気によって衛気が通常の流注速度より速くなり、表実(太陽実)となっている。そして営気も胃の熱を受けて水が乾かされることで粘調度を増し、衛気とは逆に流注速度は遅くなっている。すなわち表ではこの実を発汗することによって表虚となるが、裏では往来が遅い為表が虚しているものを補うことが出来ない状況にある。つまりは膀胱経の別絡である陽蹻脈の流注に於いて虚し、腎経の別絡である陰蹻脈に於いて溜滞することからも、生体は陽気不足になって各器官を動かすことが出来ず、遂には眠くなるのである。

これらをまとめると、飲酒は生体内に過剰な陽気を入れることであり、その過剰な陽気を体外に排泄していく過程に於いて陽虚になることは、生体の動きが止まることであり、必要な陽気を排泄しない為にそれ以上陽気を増やさないようにすることにもなるので眠くなるのである。

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