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パンドラの箱の中の手紙

ぼく葛城たかし中学2年生、竜が台中学に通う普通の中学生。小学校4年生の時に奈良の三和から越して来たんだ。奈良でおじいちゃんは鍼灸薬局をしていたんだけど、おとうさんが神戸に転勤することになったんで、そこを若いお弟子さんに譲って一緒に神戸に来たんだ。

「伝統医学」という言葉が教科書にでてきたので、何となく気に掛かり辞書を引くと「インドのアーユルヴェーダ、イスラム文化圏のユナニイ、東アジア文化圏の中国医学などを三代伝統医学という・・・」というのが書いたあった。それはクラスで共同研究をするのに、ぼくは「伝統医学」を担当する事になったので図書館でこれについて調べていたんだけど、これ以外は詳しく書いていなかった。

それでもうちょっと詳しく知りたいなと思ったので、家に帰って今はもう隠居しているけどついこの間まで診療していた祖父に聞いてみることにした。祖父は何かの本を読んでいたらしく急に横に座られたのです少し驚いた様子だったが顔を上げて「どうした何かようか」と尋ねた。

「うん、今度学校の共同研究で伝統医学について調べて発表する事になったんで今図書館に行ってたんだけど、あんまり詳しくは書いていなかったんだ。それでおじいちゃんなら何でも知っているし、大体この間まで診療していたから、本を読むよりも直接聞く方がわかりやすいなと思って帰ってきたんだ。」

「そうか、で一体何を書くんだ、一口に伝統医学といっても範囲が広いんだ、とても一口に言えるものではないし、話したところで何も知らないおまえにはわからんだろう。」

「いやそんなに難しくなくて簡単でいいんだ。でもできたら歴史あたりから初めてもらうとまとめやすいんだけど。」

「そうかそれならごく簡単になるべくわかりやすく話してやろう。」そういっておじいちゃんはゆっくり話し始めた。

「わしが知っとる伝統医学というのは中国医学しか知らん。わしは特に名前の通った大学を出た訳ではないからの、だから先ず今は中国というが、それ以前の遠い過去に大陸で行われて人々を救い、また今もそれによって救う事が出来る医学の歴史から話をしていこうかの。

そもそも大陸で行われていた東洋の医学は、大陸を大きく流れる黄河の流域で起こった文化といってもいいだろう、昔々の事をいろんな遺跡や発掘されたものを組み合わせて想像しているだけだから絶対じゃないんだ、何しろ今から五千年も前のことだからな、その歴史を知る手掛かりにしているのが司馬遷という人が書いた『史記』という本じゃ。この本には中国文化の起源やらその時々で人がどうしたとかが書かれてある。

つまり日本にも『古事記』や『日本書紀』という書物があって「因幡の白兎伝説」や「天の岩戸話」等の神話を知る事が出来るように、中国にも似た様な神話がこの『史記』の冒頭に書かれてある。それは伏犠と女媧と神農という三人の話から始まるんじゃが、たぶんわしが思うにこの三神は、ある地方の部族の習慣や文化の特徴を総してこういう具合に表現されたと思うんだ、例えば伏義も女媧もどちらも身体が蛇で頭は人間なんじゃが、伏義は漁の仕方や家畜の仕方を教え、法律の元になるものを作ったんじゃな。そして女媧は治水をして人々を助けたという事が書かれておる。

また大阪には神農神社というのがあるんじゃが、これなんかを見ると頭が牛なんじゃ、この人は木を切って鍬を作り人々に農業を教え、百の草をなめて薬の元になるものとならないものを教えたんだそうだ。どうじや難しいか。」

と一気にそこまで喋ってふとぼくの方を見た。

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